美学【aesthetics】

  哲学の一分野である。ドイツ語のAsthetikの訳語であり、「美についての学問」というような合成語ではない。1889年東京帝国大学文学部に「美学講座」が開設され、以後、同様の講座や学科が他大学に設置されていったことで、呼称として一般化した。学問的な体系としては、ドイツの哲学者、バウムガルテンが、上位認識としての理性に対する、下位認識としての感覚・感性に、感覚的知覚を意味するドイツ語のAstetikを与え、そこから感性的認識学としての「美学」を規定したことに始まる。美学の体系的基本構造を定義の前提としてまとめておきたい。美学は、科学的心理や道徳的規範への認識とともにある自我とは離脱して存立し得る。しかし、美の認識は、生身の自我との関係のなかでこそ顕現することができるため、そこに哲学的な問題をはらんでいる。つまり、美を成立させるには、主体と客体の緊張関係があり、その美の価値の評価以前に、主客関係を統一的に把握すること自体が不可能であるかに見えるからだ。そこで、この問題を直視することが、美学の学問的究明の可能性を示唆していると考えられ、確信されてきた。美を成立させる美的体験の構造を、普遍的なものとして客観的に記述できるはずと考えられてきたのである。美的領域への洞察においては、哲学的思索と科学的観察との緊密な相互関係が求められるのである。そしてさらに、美学は、文芸学や美術学、音楽学などをも包容している。デザインにとっては、デザイン美学なるものが構築されてほしいと思う。デザイン美学は美の主体と客体の関係を端的に認識できる美学の基本構造になり得ると確信している。なぜならば、美学は単なる経験科学ではなく、デザイン成果物と人間、社会、自然などとの関係から哲学化することで、哲学体系内へと組み込める可能性があると考えるからである。哲学的美学の対象として、デザイン美学あるいは美学的デザインは、美を創出するデザインの根本原理を見直すことができるのではないだろうか。そこから、個々のデザインによる美的現象の合理的解釈がデザイン営為の姿勢に繋がるものと考える。

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