室町時代以後の日本語である。漢語では仏教で使用する器具、いわゆる仏具から、道具という言葉は生まれたと言われている。つまり、人間がある特定の目的を実現しようとする場合に、物的な手段として運用しようという意志を反映する媒介物である。英語のtoolは、日本語的には大工道具的な意味がある。しかし、的確な表現としては、implementが日本語での道具という意味と合致している。 道具の使用だけではなく、道具の製作そのものが、人類を特色づけている。人類は後肢で立ち、前肢を手として用いることで、道具の製作と使用を可能にしてきた。道具は、確かに人間の能力を拡大し補強するということから、人間の器官の延長とも考えられる。しかし、あくまでもその働き、すなわち機能性を対象として、道具の形態は決定されてきた。大脳の発達によって、人間の諸能力が拡大し、それとともに道具はやがて機械へと進化を遂げた。道具の材料も、自然物から化学技術の応用による素材の使用、プラスチックやシリコン系へと広がっている。道具の出現が石器としての刃物であったとはいえ、道具を利器(刃物)としてだけ捉えるのではなく、容器や、筆記用具、計測用具といった側面をも見ていくことが必要である。これは、人間と文明の関係性を捉える道具史観という考え方に繋がる。 デザインにとって、道具は2つの観点で捉えることができる。1つはデザインツールとしての道具である。もう1つは、デザイン対象としての道具そのもののデザインである。現在では、道具と機械や機器との区別は厳密ではなくなっている。家庭電化器具は家財的な道具であり、コンピュータすら、日常的な道具という見方が当たり前になっている。したがって、人間と道具との関係では、道具の存在性・機能性・構造性・象徴性という以外に、新たな道具観に基づくデザインが求められていると考える。それは、ユニバーサルデザインやインタラクションデザイン、そしてエコロジーデザインとしての道具観である。