設来は「造形美術」という、美術の範疇を限定する熟語として使われはじめた。造形美術とは、東洋古来の実の表現形式に対して、西洋の言葉であるbeaux−arts(仏)、fine art(英)、belle art(伊)、schone Kunste(独)の直訳である「美術」という語が当てられたことから生まれた言葉である。 美術という言葉は明治初期以降、「美の表現を目的とする芸術」を意味した。しかし当初、美術という概念の輪郭は曖昧だった。絵画や彫刻、詩歌、音楽、演劇、舞台、さらに坪内逍遥などは小説までも美術に加えた。一方で、建築や工芸、特に東洋独特の美の創造行為である書道や造園などは、美術に含まれなかった。そこで、人間精神の所産として、感覚的価値の美を形あるものとして創造する芸術を造形美術、あるい は造形と総称したのである。しかし、以後、この造形という言葉は、美を目的とする営為という意味から逸脱していく。例えば、宗教作品においては、造形は、美よりも聖性や慈悲の表現、時には教訓としての恐怖の表現を目指すことになる。結果として、造形という言葉は、その目的が美に限らず、表現されたものに何らかの感覚的な価値の付与を目指す営為を含ませたものとして使用されるようになった。 特に、造形デザインやデザイン造形という場合には、美術の範疇を拡大して、建築や書道、造園にまで及ぶ。さらには、美を目的とするだけではなくて、何らかの価値の創出を目論んだ形式づくり、さらにはその手法づくりまでが対象になった。現在では、形態やかたちのあるモノ、かたちのあるコトまでをつくり上げる行為すべてを造形と呼んでいる。造形芸術や造形デザインという言葉は、造形によって生み出される対象が、芸術かデザインなのかを限定していくものにすぎない。このように造形は、創造活動での「かたち」づくりの総意的な意味を持つ言葉になっている。