現代人にとって、精神的、心理的、身体的に不可欠なものとなっている。身体的な生理安静状態を指し、最終的には人間の死を到達点とした言葉であるが、現代社会の人間にとっては、精神的/心理的な面での意味がひじょうに大きい。現代の人間はさまざまなストレス(圧迫状況)のなかで生活をしている。そのストレスは、結局は、身体的な異変や病気を引き起こす要因となることも既に科学的・医学的に検証されている。「安らぎを得る」とは、「心がゆったりと落ち着いて穏やかなこと」である。「一時の安らぎ」という表現があるように、人間は実際、「一時的」にしか、そうした状態を獲得できない。この安らぎを得る方法論として「ヒーリング(癒し)」が、人間生活では不可欠となっている。いやしには、心身に働きかけて生命力・自己治癒力を引き出し、治癒・治療・回復を促す活動という意味がある。この「一時の安らぎ」を確実にするには、緊張感や圧迫感、さらには強制力からの解放が必要となる。
そこで、この安らぎ、あるいは癒し効果を意図する様々な商品やアイテムのデザインにおいては、そのアイテムが生命力や自己治癒力を再活性化することが求められる。しかしその場合に、精神性や心理性が優先されると、非科学的あるいは超科学的、さらにはおまじないや迷信、占い的な要素付けへの偏向が起きることとなる。つまり、デザインが、「安らぎを得たいという欲望」を刺激するためだけの手法となる可能性がきわめて高いのである。デザインは客観的・合理的・科学的な再適正や適合性をコンセプトにおいて、それらを明白、明快に責務と義務があることを忘れてはならない。「安らぎ」に対するデザイン解決は、一方で産業的、経済的効果をもたらすことは明らかであるが、元来は、デザインそのものが、安らぎとは不可分であることを明確にしておくことが、デザイナーの職能倫理であってしかるべきだと考えている。