ヌード【The nude】

  裸体画、裸体像、裸身画像、つまり人間の裸の状態、あるいは人間態をした神や悪魔を表現した絵画や彫刻全般を表し、全裸状態だけでなく、身体の一部を衣服などで隠しているものも含む。元来は人間やその対象となるものの生命力の象徴が第一義であった。しかし、それに加えて感情や性格、身体的表出、身振りなどを直接的、あるいは直裁的に表示することで、その表現は記号的意味性を獲得していった。古代より、美術的な表現対象として、理想的な人間の肉体美があり、神話や宗教的なテーマにおける裸体表現は基本的なものであった。そして、プロポーションや肉感的なボリューム、マッス、皮膚の肌合い・色調の表現によって、感覚的さらには美的、艶的、エロティックな性的表現にまで至るようになった。とりわけ、ロココ時代からは美学的見地から女性の裸体が好まれ、主要な美術的表現対象となっていった。ところが、これより以後、ヌード=女性裸体というイメージに繋がっていくこととなる。美術的なトレーニングとして、ヌードデッサンやヌード撮影がアカデミックな教育カリキュラムのなかにある一方で、性的な嗜好対象になる。特に、女性の裸体が商業的な記号性を持つことで、ヌード表現そのものが風俗現象と化し、社会的、政治的、制度的な問題として浮上しているのである。こうしたことも踏まえつつ、現代のジェンダー的な問題や性同一性の問題に対しては、きわめてデザイン的な解決が必要であることを指摘しておきたい。ヌードの本来的な生命力の解釈と意味に立ち返り、現代社会の表現対象あるいは表徴記号としての、人間の感情や性格、身体的表出、身振りなどの表示の手法を再度検討すべきだと想う。   

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