もの【   Mono(Japanease for thing )   】

  物・もの・モノと表現する。漢字の「物」は「勿(ブツ)」より派生した。「勿」は風になびくさまざまな色の旗を象形する漢字で、色が乱れてよく見えない微妙さを表し、そこからさまざまな色と形の「もの」の意となっている。「物」あるいは「物体」は具体的な形の存在のことを言い、「モノ」は人工物を指示し、それらの総体として「もの」という表現があると区別することができる。さらに「もの」は、具体的な物体に限らず、思考対象としての事実や存在性、つまり「こと」までをも広義に包含する概念語となっている。特に、魂や精神、鬼、妖怪などと関連して、「もののけ」「ものものしい」「ものすごい」「ものがなしい」などという表現があるように、日本語にはこの「物」という漢字への畏敬が備わっている。
 西洋においても、「物」という概念にはきわめて多義性と多様性がある。自然界に存在する無機物から、人間によってつくられたり、使い慣らされた道具にいたるまで、万物という概念で繋がっているのは、「物」には自然と生成に関する内在的な原理があるという認識からである。こうしたことからもわかるように、「事実的存在」と「本質的存在」を包含する「もの」は、中世・近代から現代まで,1つの世界観として継承されている。
 デザインされた「物」は「モノ」としての存在であると同時に、精神的あるいは認知的な意思・意欲・生命力への、高次に構成されたシンボルでもある。つまり、デザインは具体的な形や色を構造化するだけではなく、思考から行動への刺激装置としての「もの」をつくり出すのである。このことは、物によって「こと」を誘発するための「シンボル」を創出する営為、それがデザインであるという定義が可能なことを示している。   

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