ムーブメント【Movement】

  現在では日本語として定着している言葉である。主に政治的あるいは社会的な「運動」を表す。政治的・社会的な運動とは、ある仕掛けによって、民衆やその一部の人々の関心を高め、政治的・社会的な傾向や目標を成し遂げようということである。つまり、社会性に変化や変容をおこすということにほかならない。
 ここでは、デザインはムーブメントであるということに限定して、この言葉の意味を定義しておきたい。なぜならば、デザインという職能のスタートから今日にいたるまで、デザインという活動はすべからくムーブメント、つまり日常生活や社会的な人々の関心に対して、変化や変容を求めようという理想主義を拡大するための運動の動機づけであると確信しているからである。デザインの起源までに遡れば、そこには3つの原点がある。ロシア・アヴァンギャルドにおける民衆の日常的な用の世界観を普遍的化すること。アーツ・アンド・クラフトに見られる自然と機械文明との調和、バウハウスによる機能的な日常の用具や機器の一般化。さらには、わが国での民芸運動もある意味ではデザインムーブメントであった。
 そして、今日のデザインは、まだまだある種の社会的な理想主義を具体的に実現していくムーブメントにほかならないと私は思っている。しかし、デザインが真に社会的なムーブメントとしての構造体系を持つためには、欠落している事が多いと言わざるをえない。なぜならデザインの歴史を考えた場合、デザインは政治的・社会的な役割よりも、経済的特に商業主義的な「付加価値」として、その効果を位置づけられてきたからである。広告やモデルチェンジによって、一般の欲望を刺激する装置としてのデザインという意味が普遍化したとも言える。しかし、デザインはあくまでも人類の理想主義の具体化であるという原理原則にしたがえば、本来でデザインは欲望の刺激装置でなかったことは明白である。むしろ、政治的であり、社会的な「変化」あるいは「一新化」への動機づくり(トリガー)であると考える事が妥当ではないかと確信している。   

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