フランス語のボーザール(beaux art)や、英語のファイン・アーツ(fine art)などの直訳で.ある。明治初期から用いられるようになった言葉だが、美術という概念の輪郭は未だに曖昧であると言わざるを得ない。明治時代には、美の表現を目的とする芸術として、絵画・彫刻1建築・工芸はもとより、詩歌・演劇・舞踊までを包含し、坪内迫遙の『小説神髄』では、文学も美術の領域としていた。しかし、近年では、形態や形体を創造する芸術、つまり造形芸術に限定する呼称的概念となっている。そこには書道や造園、あるいは建築は含まれない。例えば、写真や映像なども大局的には芸術に含まれるはずだが、はたしでそれが美術であるかどうかの議論は避けられている。これについては美術と芸術という概念の対比のなかで見直す必要があるだろう。芸術(art)とは、そこに技術(巧みな仕上げ表現)があることであり、美術(fine art)とはさらに美が意味付けられたものである。美の表現者であるartistと、技の表現者であるartisanとが区別されているように、建築や工芸は.実用性・機能性がより重視された表現であり、美術の範薦を逸脱したものとして見られるようになったと考えることができる。こうしたことからも、美術あるいは美とは人の目を楽しませるものであるという単純な定義を{現在でも多くの人が信奉している。美術史・考古学・民俗学・宗教学による知見からすれば、「美術=造形作品」という見方の偏向は、造形の目的と美の表現に対する感覚的価値観が大きく変容してきた所以である。デザインにおいては、美の表現とともに機能性や実用性の実現が求められる。そこで例えば、応用美術としてのデザイン、あるいはデザインという応用美術という歴史的な変遷を遡り、機能と美との関係が問い直されるべきであると考える。つまり、美術あるいは美という概念そのものの問い直しが、デザインにとっても必要である。