すでに建築界においても、忘れられている概念であるが、1938年に文明評論家、ルイス・マンフォードが著書『都市の文化』の中で、都市の発展と衰退を段階的に捉え、最後の段階として提示したコンセプトである。経済的に集中化する富と拡大する人口によって、メガロポリスは、いつの日か腐敗し、道徳的、倫理的に堕落してティラノポリスとなる。これは現代東京での若者文化の刹那主義や、享楽的繁華街などではすでに進行している。となれば、最終的には戦争や疫病などにより、都市が廃墟化するというこの説には大きな道理を感じ取ることができる。この廃墟化のことを、死の都市、つまりネクロポリスとしてマンフォードは予測し、定義した。これは現代の都市の発展と衰退の段階説に止まっているだけではない。経済的な発展による富の象徴が都市であると言うのではなく、むしろ地球的規模での戦時体制や民族紛争、飢餓、貧困などが多発している世界での、あらゆる都市現象を再度検討するためのコンセプトとして、マンフォードの言葉を思い起こしたい。 さらに建築界に止まらず、環境テザインという領域までを対象としているデザイン界においても、都市の段階説を、マンフォードの理想主義的な都市観や都市の社会的・経済的・政治的・宗教的などの背景として再定義すべき概念だと考える。都市の定義については、建築テザインと環境デザインの領域から国際的な議論を積み重ね、それぞれの職能的な理想主義を国際政治への発言力に変えていくべきではないかと主張しておきたい。そして、今世紀の情報社会において、ネクロポリスそのものの定義の変更が重要だと提案したい。それは、建築界、デザイン界の職能的理想主義の哲学を再構築する大きな手立てではないかとさえ思う。今、ネクロポリスを改めて取り上げてみれば、すでに20世紀末から、先進国家の都市構造は死の都市へと追い込まれているのではないかとさえ断言することができる。