ヌミノーゼ【Numinose】

  人間には、危険を回避しようとする根元的あるいは深層的心理として、不安、恐怖、畏怖という心理作用があり、人間はその危険からなんとしても逃げ出したいと願う。  R. オットーが著作『聖なるもの』(1917)で、聖なる力を意味するラテン語のヌーメンから、聖なるものへの畏怖の感情としてヌミノーゼという言葉を定義した。この宗教的感情を分析し、神の力や意志に対して、相反する一対の感情が人間には必ず存在することを明確にしたのである。つまりそれは、畏怖(トレメンドゥム、恐れる)と魅惑(ファスキナンス、魅かれる)であった。心理学者ユングは、人間の心の深奥にある元型(アーキタイプ)に触れるときに、自然とこの根源的恐れと魅惑を感じると述べている。  ヌミノーゼ的な危険を感じたときに生じる情動的反応により、身体的には交感神経が興奮する。結果、冷汗が流れたり、震えたりする。末梢血管が収縮するために、顔面が蒼白となり、呼吸が激しくなり、心臓の鼓動が異常に早まったり、または遅くなったりする。さらに副腎からはアドレナリンが分泌され、血液が固まりやすくなり、糖分が出る。これらの情動的反応は適応の失敗によるものとする説もある。半面では、むしろ、血圧を上げて血行をよくし、糖分を出してエネルギーを高め、身体を守るための生理的反応とも考えられている。これらの反応は危険から逃げるための逃避本能によるものとする医学者や心理学者は多い。場合によっては、随意筋が弛緩して、手足が前に進まず、心臓が止まりそうになり、身体が麻痺して、逃走には最も都合の悪い状態になることもある。これは死んだふりをするためと説明されており、擬死反射と呼ばれている。実際に逃走する場合を能動的恐怖、擬死反射による反応を受動的逃避と呼ぶこともある。こうした反応のほとんどの部分は条件反射によって後天的に修得されると言われている。デザインにとって、特に、危険回避や危険対応、危機管理でのデザイン的なインタラクション的感覚として、このヌミノーゼは大きなテーマである。   

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