麻、葛(くず)、苧(からむし)などの植物を素材として、その繊維を使った織物を元来意味しており、絹および毛織り以外のすべての織物の呼称であった。しかし後に、木綿もそのなかに含まれるようになった。今日では、絹をも含めて織物の総称となっている。布=フという表音にあるように、元来、膚=フと共通の意味を持ち、人間の皮膚に張り付くほど平らで薄いものを意味している。 ここで、織物とその英語表現としてのテキスタイルという2つの言葉をデザイン面から定義しておきたい。まず、一般的に織物とは、2本の経糸(タテイト)と緯糸(ヨコイト・ヌキイト)という2組の糸の組み合わせを最小単位として、織機を用いてつくられた、ある幅と長さを持つ平面を総称している。そして、この経糸と緯糸の素材や組み合わせによる、その平面の視覚的あるいは感覚的な特質を、いわばテキスタイルと呼ぶのが適切である。こうした感覚的、特に感触的な表現が、デザイン的には、例えば水平・横・平行などの意味となって、「布羽目」や「布竹」という建築の表現にも繋がっている。 また、触覚性を表す、「しなやかさ」「きしみ」「ふくらみ」「しゃり」「こし」「はり」「ぬめり」という7つの言葉は、感性的表現であり、織物である布の品質感覚そのものの尺度にもなっている。かつて、わが国の主要産業であった織物産業においては、この尺度が職人技能の勘として身体化されていた。しかし、デザインにおいては、いまだに感性的尺度として定義づけられていない。あらためて、こうした布に対する素材感覚は、感性的なデザインの大きなテーマであると提言しておきたい。