ダイナミックス【Dynamics】

  一般的には、自己・他者・他物に対して何らかの作用を及ぼす可能性の総称である。この場合、作用を及ぼす「カ」ではなくて、「可能性」ということが大きな意味を持っている。歴史的には、古代ギリシャ哲学において、エンペドクレスの「物質混成における支配原理」として発想された。以後、プラトンの「相異なる物同士の引力」、そして、アリストテレスの「相似たもの同士の引力」を措定したことが発端になっている。古代中国でも、物質同士の親和力など、錬金丹術文献に同じ着想が見られる。この考え方は、ヘルメス思想からニュートンの法則にまで受け継がれて、近代物理学から社会学のアナロジー的な考え方おいて、作用性や可能性という意味として使われている。 そして、今後は、何らかのシステムを動的に運用していく、という概念を表す基本用語として用いることができる。例えば、システムとは、すでに体系化されている作用結果や可能性を指し示す概念である。しかし、このシステムということばを、ダイナミックスという包括的な表現に変えれば、時間経過的に変更・変容の可能性を考慮できる動的なシステムとして考えられ、相互的な作用性を概念化・仮説化することができる。例えば、「カラーシステム」と言えば、それはすでに、あるコンセプトによって決定されている色彩体系を意味する。しかしこれを、「カラーダイナミックス」とすれば、すでに体系化されている色彩であっても、可変し、より対応可能で動的なシステムであり、よりインタラクティブな色彩運用が可能な動体系としてとらえることができる。 デザインダイナミックスと言う場合、それは、現代の情報社会におけるデザインシステムが、常に流動的・動的であるということである。そして、時代や社会との関係性において、デザインの可能性や作用性、さらにはインタラクティブな引力性や斥力性を明確に言い表す、デザイン手法としての概念用語になっていくものと期待する。   

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