J.J.ギブソンが提唱した「アフォーダンス」という認知心理学用語に関連し、知覚要素としての、環境に対する触覚感覚を的確に表わした概念用語である。本来、アフォーダンスとは、モノに備わっている性質と考えることができる。その性質は、モノと動物との関係、とりわけモノと人間との関係において、モノに人間が接触するときの感覚のことを言う。そして、その感覚は、心理学的な関係によって成立している環境と人間、あるいは環境と動物の一体的な存在を確認することが可能な全般的な感覚と考えることができる。 特に、人間は「接触」すること、あるいは「接触した場合」を予測したり、予感が働く場合に、なんらかの感覚で、対象となるモノの性質を把握することができる。例えば、あるモノの先端を掴もうとする場合に、その先端が鋭利であれば、ひょっとするとその先端に触れると、突き刺さるかもしれないとか、切れるかもしれないという予感が働く。それは、そのモノの先端の鋭さによって、そのモノの材質感が、そのモノに性質の一部を構成していると感じ取ることができるからである。このように、モノを持とうとしたり、掴もうという場合に、その性質を知ろうとする手の動きや手から感じ取れそうな感覚を、ダイナミック・タッチ(接触感覚)とギブソンは定義している。 つまり、人間も含む動物は環境という周囲に対して、「触れることのできる範囲」でしか、その環境内での自分の存在、あるいは環境そのものを実感することができないということである。したがって、触感をあらかじめ認知できそうな環境や周囲の状況、そのなかにあるモノなどの、デザイン対象には、接触感覚に対してなんらかのアフォード性能が必要であるということである。言い換えれば、アフォーダンスをデザイン意図に込める場合には、特に、このダイナミック・タッチについての予測が必要である。