民芸【Folkcraft】

  民の手による工芸品への美学的な価値観を示す大正時代に生まれた造語である。
 わが国には、工芸と呼ばれる、「用と美」を兼ね備えた美術品ともなっている日常品があり、世界にも同様にfork-artやpopular-artなどという分野がある。
 これらは美術品であり、つくり手の作家性が問われる。しかし、こうした価値観とは違う、新たな芸術的価値評価が必要なモノの体系を「民芸」と名辞し、その価値の普遍性を一般に訴求する運動、すなわち「民芸運動」が起こった。その中心人物が柳 宗悦であり、彼は白樺派の創設にも参画し、文筆によってもその運動をリードした。
 なぜ「民」という言葉をもって、工芸が言い換えられたのかを整理しておきたい。「民」とはあくまでも被支配者としての大衆であり民衆である。したがって、そうした人たちによる工芸的なモノ作りとは、無名性や匿名性の下での、あくまでも「日常で使用するモノ」をつくることであった。日本各地には、日常性を支援する無名性のモノが散在しており、民芸運動はこうしたモノの価値を捉え直し、改めて日本の民族文化、民の生活の地道さや真摯な生き方の価値を見直そうとしたのである。この再認識は以後、デザインの美学性における大きな思想基盤にもなった。日本の伝統工芸の本来あるべき方向性を再検証したものであった。
 ところが、敗戦後、日本の伝統工芸や美術工芸は、民芸、民芸運動の根底にあった本来の意識を見失っていると考えざるを得ない。例えば、その間違いの1つは、日本各地の伝統的な土産品に、「民芸品」という呼び方を与えて一般化してしまったことである。かつての「民芸」「民芸運動」の根底にあったものを、デザインにおいても存続し確認する作業を忘れてはならない。

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