認知科学とは、脳と心の働きを情報科学的な方法論に基づいて明確化し、人間理解を深めるための知的思考科学、つまり脳の営みの学問である。したがって、認知科学の対象は、心理学、言語学、情報科学、計算機科学、神経科学、教育学、文化人類学などとの学際性から導き出されるものと考えられる。 人間理解のための方法論としては、伝統的分野を貫く統合的な体系としての哲学領域があるが、脳と心の働きを、経験科学の立場から理解する学問体系として認知科学が登場した。特に、認知科学は、情報の概念と情報科学の方法論に特徴がある。 認知科学という名称は、1975年に出版された『表現と理解』(D.ボブロー & A.コリンズ 著)という本の副題として初めて登場した。現在の認知科学は、(1)脳と心における情報処理の表現と情報の利用の解明、(2)脳の諸機能と心の諸機能の対応、(3)人工物・環境の設計や利用、そして医療、教育などのさまざまなシステムや組織のデザイン、さらにその他の応用、といった方向に発展している。したがって、デザインにとってはきわめて不可欠な背景的、基盤的、さらには応用予測のための学識論であることは間違いない。 例えば、人間にとって使いやすくメンテナンスの容易な機械やヒューマンインターフェースのデザイン、生活環境・教育環境・医療福祉環境・社会組織などのデザイン、大量データからの情報発見手法というデザインのためには、認知科学はその体系の裏付けになるだろう。デザインによるコミュニケーションは、認知科学の対象である脳や心の働きを引き出し、深めることで、さらに精確になるものと期待できる。つまりデザインと認知科学は、学際的な関係にあるものと考えられる。