現代の高密度な技術の進展は、かえって人間に技術への不安感や不信感を抱かせるようになってきた。そこで、技術と人間の関係をよりよく方向付けようとするための、人間を主体にした考え方を「人間中心主義」と呼ぶ。これは中心的な存在としての人間から、技術、さらにその技術を要請する背景としての社会や環境のあり方までを問い直そうという考え方である。特に、この場合の技術や環境とは、情報化技術や情報化環境を意味している。この人間中心とは、中心と周縁の相互関係としてとらえられるものである。中心に存在する人間を規定している周縁や境界から、演繹的に主体性が求められていることに注視した考え方である。あくまでも人間の主体性を最重要視することではない。主体としての人間をどのような客体が取り囲んでいるかという、周縁としての環境への問題意識が、この主義の根底にあると考えるべきである。つまり、主体としての人間と客体としての環境や時代、制度、社会性との相互関係で、この人間中心主義が問われているのである。 そこで、人間中心主義的デザインという考え方が生まれてきた。この場合の人間中心主義は、ヒューマン・サイエンス・アドバンスト・テクノロジーという、人間と先端技術、特に情報技術との関係から体系づけられ、人間科学的な見方が基盤となっている。それは、単にユニバーサルデザインや、環境と人間との調和を考えていくだけの範疇に収まらない。人間の体験の質(Quality of Experience)を主体としたデザインの本質を求めようという考え方に繋がっている。人間が主体性を持って、技術、とりわけ情報技術との関係を構築していくには、人間を取り囲んでいるさまざまな周縁との関係が、デザインの対象として明確でなければならない。その中心としての主体は、周縁という客体とのインタラクション的なデザインで構成されなければ、これからのデザインの本質的な効用と効果は明快にはならないというのが、人間中心主義的デザインの骨子であると考えられる。