原語はギリシア語のschetchyであり、これは「即席でなされたモノ」という意味であった。そこから派生して英語では、素描、点描、略図、写生図、事件などの概要・概略、文学作品での小品、演劇での寸劇、小劇などを意味している。中でも特に「素描」という意味を、より詳細に分類したことばである。即興的な素描は、実在しているモノを簡略に写生したモノ、あるいは対象なしに自由な発想を素早くできる限り描き止めたものである。これをフランス語ではcrowuisと呼び、もう1つの素描を意味する単語であるesquisseとは対照的である。esquisseは、ある対象を入念に観察して、研究するための素描という意味だ。 デザインにおけるスケッチは、一般的には、単色で描かれた線描的な表現であり、創造された非存在のイメージを描き止めた素描ということになる。ルネッサンス期にまで遡れば、画家のチェンニーノ・チェンニーニは、「素描(イタリア語でdesegono)と色彩が芸術の基本である」と言っている。この芸術の定義から、同時期の画家のL.B.アルベルティは、絵画では、輪郭・構図・採光(明暗)が主要素であり、この3要素の中で、最も基本的なものとして「空間と物体の境界である」「線(輪郭)」を重要視した。そして、線描は以後、ピエロ・デラ・フランチェスカによって、空間を透視図として幾何学的に整理するための絵画技法論の基礎となった。その後、レオナルド・ダ・ヴィンチによって、線ではなく「陰影という現象的な光の把握」という認識が提唱された。これは、空間の中の物体をとらえるものは線ではなく、陰影の中の見えざるもの、つまり「精神」によってモノに対する認識が喚起されるという考え方である。この素描観によって喚起される精神性の表現を、ミケランジェロはさらに、「私は目の中にコンパスを持っている」とまで断言した。こうしたルネッサンス期の芸術観からも分かるように、素描や描画を意味するイタリア語のdisegnareは、designの原語であるdesignareと極めて密接な関係性があったのである。