数学的モデル【MathematicalModel】

  モデルとは、デザインにおいては、基準や規範という概念であるだけでなく、実在するデザイン成果物の見本、あるいは手法という意味もある。 ここで「数学的モデル」をデザイン用語に加えているのは、数学的な思考や手法、論理が、果たしてデザインにとっても有効であるのか、という議論を投げかけるためである。なぜならば、デザインにおける思考には、少なからず、次の3つの側面があると判断するからだ。まず、1.発想段階:コンセプト立案、次に、2.表現段階:モデリングによるデザインの成果提示、そして、3.その伝達による評価である。これらは、数学的モデルの構築とまったく対置でき、数学的モデルの中に同様の対応が確認できるからである。 数学的モデルでは、1.モデルの設定:取り上げる現象や問題に応じて、数学的には定義できない原始概念を、ある仮定の中で定式化する。これはまさしくコンセプトをデザインテーマとして仮説化することに等しい。2.モデル分析:数学的な公理体系から論理的帰結を導き出すことによって、実質的な問題解決の経過や文脈との関係性はとりあえず放棄する。これは、デザイン表現を重視し、コンセプトと表現の可能性について導出できる論理だけを表現意図とすることに等しい。3.モデル応用:抽象化して、検証する。これは、デザイン成果であるモデルに対して、実際的な存在環境を予測し、検証評価することで、デザイン価値を訴求するための論理背景となることを伝達していくことに一致している。 以上の対置と対応からも分かるように、デザインにおいて数学的モデルの応用は有効な手法となると考える。特に感性的なデザイン評価や、デザインプロセスでの感性工学的な思考論理を、より明確にしていく手法や、その構築のためには、数学的モデルといわれている確率論やグラフ理論、ファジー理論、ゲーム理論、トポロジー、カタストロフィー理論などと、デザインを対応させていくことが、デザインの学際化のためには不可欠である。   

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