人間社会の時間的な経過の中での事件・出来事・記憶すべき事項を世界観として記述することである。英語のHistoryはギリシア語の「探求する」という言葉からきている。時間軸に沿った、日々の出来事や事件の記述(ジャーナル)が基本であるが、その背景には何らかの観点や秩序性がなければならない。また、記述された時代の権力によって、歴史的な事実と真実には大きな差違が記録されてきたことはしばしば指摘されてきたことである。記述者への社会制度的な圧力が働いたり、あるいは権力側の主観的な思想や解釈などにより、客観性が排撃された記録となっている歴史や史観は少なくない。
あるテーマの記述において、時間的な経過や過程での客観性を持った学問としての歴史科学が成立したのは近世である。これは「歴史的方法」「歴史主義」「歴史哲学」などの言葉に見られるように、「学」と「論」によって、客観的な歴史観を知識としていくことである。さらに、現代では、映像による記録をはじめとして、さまざまな歴史の記録手法が出現したことは注視すべきであり、それらはかつてのような歴史記録の観点や秩序性というものから、歴史情報へと変遷してきたと考えられる。 そこでデザイン史とは、デザインを中核にしたデザインの歴史であり、ようやく、美術史や建築史、音楽史などと同列にデザインが組み込まれてきた。デザイン史が「学」となってきたのは、20世紀末になってからにすぎない。ただし、時系列的、あるいは編年体的なデザインの作品や成果、あるいはデザインの転換になった因果的な事象を記述するだけでは、デザインの歴史哲学にはなり得ないと私は考えている。重要なのは、一般的な歴史の中で、歴史的な事象とデザインとの関係を紡ぎ出す観点や姿勢である。つまり、デザイン的な観点から、再度、歴史という「学の論理」あるいは「論の観点」を検証することで、歴史、つまり探求するデザインとは何かが明らかになるのではないか。また,デザイナー的立場からは、歴史・来歴・コンテクストとして、「歴史とは何か」というよりも「何が歴史か」というデザイン的な探求が可能になると考える。