ポピュラー文化【Popular culture】

  この言葉はすでに死語に近いかもしれないが、その訳語は大きな意味を持っている。一般的には「大衆文化」「通俗文化」が定訳である。しかし、ここで大衆と通俗との関連を定義しなければならない。英語におけるポピュラーとは、労働者階級から中産階級の人々を表している。歴史的には労働者階級とその社会での通俗性が言葉の基盤であった。例えばこうした脈絡から、ポピュラー音楽という音楽ジャンルが生まれたのであるが、これはポピュラー文化のいちばんの中心と言ってもいいだろう。音楽ジャンルにおいてポピュラー音楽は、音楽文化としての明確な歴史とその定義を持っている。 このような通俗的である文化に加えて、わが国のポピュラー文化とは、大衆一般が好む流行の定着や、大衆嗜好の結果であるという定義が可能である。特に中産階級社会が主体を担っている米国や日本においては、大衆をさらに再分類し、分衆社会化、小衆社会化における狭義の通俗性をポピュラー文化と呼ぶようになったこともある。また、大衆の文化的行動や傾向は、経済動向と密接な関係がある。つまり、構造主義的には大衆性や通俗性を経済効果による文化現象と読み取ることができる。それはカウンター文化やアンダーグラウンドと呼ばれる社会動向とは隔絶したものであった。さらに、大衆という定義が困難になり、階級社会化が顕在してくるにしたがって、結果的に、通俗性と大衆性の間に隔たりができるようになった。
 デザインにとって言えば、特にモダンデザインは通俗性を肯定しつつ、かつどこかで否定することで、その高度化や嗜好性の向上を意図してきたことは明らかである。むしろ、デザインの根底では、カウンター文化を操作することで、その通俗性としての流行を計るという一面があったことが認められる。現在、わが国の大衆文化あるいは通俗文化は、再検証が求められていると思う。   

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