本来の数学用語としてよりも、一般的な会話で使われる言葉になっている。数学的に説明すると、物を動かそうとするときには力が必要である。これには押す力と引く力があるのだが、押すのと引くのとでは、全くその効果は異なる。つまり、力には、方向とその大きさがある、同様に、速度あるいは加速度にも大きさと向きがある。このように大きさと向きを持った線、つまる有向線分で表す。線の長さがベクトルのおおきさを、向きが方向を表す。
力のベクトルには始点と終点がある。始点は作用点とも呼ぶ。それぞれのベクトル量を実数として扱うことができる。始点が固定されているものを束縛ベクトルという。これに対して、始点が平面上で平行移動できるものを自由ベクトルという。始点が同じである束縛ベクトルの和は、平行四辺形という平面上では、合成ベクトルなり、一般的には、この合成ベクトルが、日常会話でのベクトルという言葉と、そのイメージの元になっていると考えられる。この場合のベクトルは、力や速度の大きさや向きというよりも、何らかの事象の大きさや方向性をイメージさせるための隠喩的な言葉として認識されている。同様のイメージで、デザイン領域の言葉として使用されることも多い。例えば、デザイン意図の方向性を語る言葉となっている。ただし、こうした言葉の使い方が、本来の数学的な意味からの逸脱であると言い切ることは出来ない。例えば、コンピュータ用語のベクトル型スーパーコンピュータやベクトルグラフィックスなども、数学的な定義に対しての隠喩性を強化したイメージ用語であるように、デザインとっても、重要な意味を持つ言葉と言っていいだろう。